家族信託の失敗事例3選
「家族信託を使ったら、大変なことになった!」
「専門家に任せているから安心だと思ったのに、こんな風になるならやめておけばよかった。」
家族信託の専門家である私たちが、実際に見聞きした「家族信託の大失敗事例」を3つご紹介します。
家族信託は、使い方を間違えると家族仲が悪くなったり、余計な税金がかかってしまったりしてしまうこともあります。
「今から家族信託をやろうかなぁ・・・。」と思っている方は、この記事を読んで、失敗しない家族信託の使い方を知っておきましょう。
「家族信託を使ったら、大変なことになった!」家族信託は、家族仲が悪くなる原因!?
家族信託は、財産を預けたい人(委託者)と、財産を預かる人(受託者)との間で、「信託契約」という契約を締結することにより始まります。
例えば、親の財産を子供が預かる家族信託の場合では、親と財産を預かる子供だけの契約で、家族信託ができます。
子供が複数人いる場合でも、信託契約を締結することを、ほかの兄弟姉妹に伝える義務はないため、兄弟姉妹のうちの一人がほかの兄弟姉妹に黙って財産を預かってしまうことがあります。
家族信託では、信託契約に、「親が死亡した場合、残った信託財産は、長男が受け取る。」といったふうに、親が死亡した後の財産の承継先を記載しておくことができます。
実際にあった「弟に財産は1円も渡さない!」と決められた家族信託
自分が知らない間に兄に家族信託を使われていたBさんから、こんな相談を頂いたことがあります。
Bさんは、お父様が亡くなったことをきっかけに、兄と相続について話し合ったときに、兄が家族信託を使って、お父様の全財産を預かっていたことを知ったそうです。
さらに、お父様の四十九日を終えた時、お兄様から「お前には、1円も渡さなくてよい契約になっているから」と言われたそうです。
Bさんは、本当に自分には、1円の権利もないのか。これからどういう風に兄と接すればいいのか不安になり、私たちに相談を頂きました。
弟は、最低限の遺留分(いりゅうぶん)を受け取れる!
Bさんは、兄に対して、自分の相続する権利を主張することはできないのでしょうか?
本来であれば、Bさんは兄と2人兄弟で、お母様もすでに他界されているため、もし、家族信託や遺言がなければ、全財産の2分の1は、法定相続分として相続する権利がありました。
このような場合、Bさんの遺留分に相当する、遺産全体の4分の1の金額を、兄に対して請求することができます。
遺留分とは、各相続人に最低限認められている財産を相続する権利で、家族信託を利用したとしてもなくなりません。
兄は、Bさんから遺留分の請求を受け、不満そうに財産の4分の1に相当するお金を支払ったそうです。
このご家庭では、兄も弟も、自分が納得いく財産を受け取れておらず、その後、兄弟仲は決裂。
ほとんど口を聞かない仲になってしまったそうです。
家族信託を行うことは、他の兄弟に伝える必要はありませんが、お父様がお元気なうちに兄弟で話し合っていれば、このような結末にはならなかったかもしれません。
専門家に任せたのに、信託が無効?!プロも見落とす家族信託の落とし穴
家族信託は、非常に歴史の浅い制度なので、組成経験の豊富な専門家は多くありません。
経験の浅い専門家がよく見落としてしまうのが、「信託してはいけない財産」です。
いろいろ、ありますがその中でも代表的なのが、「農地」。
実際には、自宅の建物が立っている土地であっても、登記簿に記載された土地の種類を変更しておらず、「田」や「畑」となっている土地がありますが、そのような土地はそのまま信託することができません。
いったん、土地の種類を「宅地」など、信託ができるものに変更したのち信託をする必要があるのですが、家族信託の専門家であっても、このポイントを見落とすことが、まれにあります。
専門家に依頼したつもりでも、実は経験の浅い専門家で、無効な契約書を作られてしまった。ということが無いように、依頼する専門家は、慎重に選びましょう。
家族信託を利用したら、思わぬ税金が!
家族信託を行い、不動産などの財産の名義を変更しても、贈与税や所得税などの税金はかからないのが原則です。
しかし、思いもよらない場面で税金がかかってしまうことがあります。
特に注意が必要なのが、不動産取得税という税金です。
不動産取得税とは、他人から不動産を購入したり、新たに建物を建築したりした場合に課税される税金なので、家族信託を使ったとしても、課税されません。
また、家族信託を利用し、親から不動産を預かったのち、親の相続が発生したタイミングで、その不動産を相続した場合にも、原則、不動産取得税は課税されません。
しかし、親の相続のタイミングで不動産取得税が課税されないようにするためには、一定の要件を満たしている必要があります。
すこし、複雑な要件ですが紹介します。
①委託者=受益者の形が信託期間中、ずっと続いていること。
②財産を取得する人が、財産を預けた人の相続人であること。
③財産を取得する人が、受益者としての地位を有すること
このような要件を満たすためには、信託契約書の作成時点から、綿密な計画をたて、法律と税金に精通した専門家が作成に関与する必要があります。
先ほど紹介した要件を満たさない契約書を作ってしまったら、本来払う必要のなかった税金を払う羽目になってしまうこともあります。
まとめ
家族信託を利用したことによるトラブル事例をご紹介させていただきました。
家族信託は、非常に便利な制度でどんどん普及していますが、今日お伝えしたように、
①家族間の話し合い
②経験豊富な専門家の関与
③税金にも配慮した契約書の作成
の3点に留意して、安全な家族信託のしくみをご家族ごとに作っていく必要があります。
実績が多く、信頼できる専門家を見つけることが、家族信託の利用をうまく行うコツといえるでしょう。
司法書士 梶原隆央(かじわらたかひさ)
神奈川県出身
平成21年司法書士資格取得
トリニティグループの信託部門にて、 実家信託から信託財産数億円に及ぶ信託、 自社株式の信託等、幅広く信託案件に対応。