オーナー経営者の認知症対策、家族信託が有効です!

2021年06月11日

高齢の両親に代わりその子が両親の金銭や不動産を管理していく、多くの方が持つ家族信託のイメージはこのようなものかと思います。

確かに、金銭や不動産を信託し、その管理、運用、処分を受託者に任せていくのが、家族信託の一般的な活用方法です。

しかし、実は、家族信託はオーナー経営者の認知症対策にも非常に有効な手段なのです。

そこで今回は、「家族信託を活用したオーナー経営者の認知症対策」についてご紹介していきたいと思います。

オーナー経営者の認知症リスク

中小企業庁の調査によると、2016年時点での日本における中小企業の数は約358万社(日本における企業全体の99.7%)となっています。

そして、この中小企業の多くは、経営者自身が自社の株式の全部または大半を所有する、いわゆる「オーナー経営者」による経営によって成り立っています。

では、もしこのオーナー経営者が認知症となってしまった場合、どのようなリスクがあるのでしょうか。

① 自社の株式の議決権を行使できなくなる

オーナー経営者が認知症となり判断能力が低下した場合、その有する自社の株式の議決権を行使することができなくなります。

その結果、役員の人事や会社の運営における重要な意思決定ができなくなり、会社の経営に重大な支障をきたすことになります。

② 円滑な事業承継ができなくなる

オーナー経営者が認知症となり判断能力が低下した後は、事業承継をすることや事業承継先(自社の株式を誰に承継させるか)を決めることができなくなります。

例えば、事業の承継を進めている最中にオーナー経営者が認知症を発症し判断能力が低下した場合、事業の承継を進めることができず、経営機能が停止した状態に陥ってしまいます。

また、自社の株式の承継先を決めていない状態で現経営者が亡くなった場合、自社の株式を特定の相続人に相続させるには、相続人全員の合意によって遺産分割の手続きを行わなければなりません。

相続人の合意がまとまらない場合、自社の株式は相続人全員が共有した状態となります。

その結果、役員の人事や会社の運営における重要な意思決定をする際には相続人全員の合意が必要となり、会社の経営に関する円滑な判断が困難となってしまいます。

以上のように、オーナー経営者が認知症となってしまった場合、会社の経営を継続させることが困難となり、最悪の場合には廃業に追い込まれてしまう可能性もあるのです。

家族信託を活用したオーナー経営者の認知症対策(基本編)

実際に家族信託を活用した場合、どのような形でオーナー経営者の認知症対策をすることができるのでしょうか。

基本的な方法としては、現経営者の持つ自社の株式を信託財産として受託者に信託します。

通常、受託者には現経営者の子など、その事業を承継する予定の後継者が就任します。

自社の株式を信託した結果、以後、株式の議決権は株式を託された「受託者」が行っていくことになります。

一方、その信託した株式に対して配当が出ていた場合、この配当は家族信託する前と変わらず、受益者である現経営者が受け取ることができます。

また、信託契約の中で、現経営者が亡くなった後の自社の株式の承継先を決めることで、認知症対策と同時に事業承継対策をすることができます。

つまり、自社の株式を信託することで、次のことを実現できるのです。

 

・議決権を行使する権利が受託者に移る

→現経営者が認知症となった場合でも、問題なく議決権を行使していくことが可能となり、会社の経営に支障をきたすことがなくなります。

・配当などを受け取る権利は受益者(現経営者)に残せる

信託する前と同様に、現経営者が配当などを受け取ることができるので、株式を譲渡するよりも現経営者にとって有利な条件となります。

・認知症対策と同時に将来の事業承継先を決めておくことができる

 

しかし、議決権の行使権限が受託者に移ることが問題となる場合もあります。

現経営者がまだ後継者に議決権を渡したくない場合や、後継者の能力がまだ議決権を握るまでには至っていないような場合です。

実は、この問題も家族信託を上手く活用することで解決することができます。

次は、家族信託を活用したオーナー経営者の認知症対策の応用編を見て行きましょう。

家族信託を活用したオーナー経営者の認知症対策(応用編)

ここでは、家族信託を活用した少し複雑な認知症対策を紹介していきます。

① 「停止条件付信託」による認知症対策

現経営者が「認知症であるとの医師による診断が出た場合」など、一定の条件(停止条件)が満たされることにより、信託の効力が発生する形の信託をすることができます。

信託契約をこの形にすることによって、信託契約をした段階では信託の効力が発生せず、効力発生の条件が成就ずるまでの間は、引き続き現経営者が議決権を行使することができる状態を維持することができます。

その後、現経営者が認知症を発症するなど、信託契約に定めた一定の条件が満たされることで信託の効力が発生します。

信託の効力が発生した場合、信託財産である自社の株式は受託者に託され、以後は受託者がその議決権を行使していくことになります。

この方法であれば、先に挙げた「認知症対策はしたいが、まだ後継者に議決権の行使を任せるのは不安」と考えるオーナー経営者の悩みも解決することができます。

会社のBCP(事業継続計画)の一環として、この信託の形態を活用することも考えられます。

② 「指図権」「同意権」を導入した家族信託による認知症対策

①の停止条件付信託は、一定の条件が満たされることにより、信託の効力が発生する形の信託でした。

では、信託の効力発生後の受託者による議決権の行使に対し、現経営者が何らかのコントロールを及ぼすことができる様な信託はないのでしょうか。

実は、これも「指図権」「同意権」といった権利を活用することで実現することができます。

具体的には、受託者が経営に関する重大な事項(株式の売却、組織再編、会社の解散など)について議決権を行使する場合に、現経営者にその議決権の行使に対する「指図権」や「同意権」を設定しておきます。

これにより、受託者による議決権の行使に対し、現経営者が指図をすることや、現経営者の同意を必要とすることができるのです。

③ 「一般社団法人」を活用した家族信託による認知症対策

最後に、受託者を法人とする家族信託について簡単に紹介します。

家族信託における受託者は、委託者の子供などご家族の方がなる場合が一般的ですが、受託者を法人(一般社団法人)とすることもできます。

受託者を法人にした場合、「受託者が死亡又は意思能力を喪失するなど、生身の人間が有するリスクがない」という点にメリットがあります。

また、オーナー経営者の認知症対策においての悩みどころである、

 

・「認知症対策はしたいが、議決権を行使する権利まで受託者に渡したくない」

・「認知症対策も含め信託により事業承継を行いたいが、現状、後継者が決まっていない」

 

といった点の解決策としても、この一般社団法人を活用した家族信託は有効です。

例えば、「議決権を行使する権利までは受託者に渡したくない」と考えるオーナー様の場合、一般社団法人を受託者とし、自らがその代表理事(株式会社における代表取締役のような立場)となることで、間接的にはなりますが、議決権の行使において自らの意思を一般社団法人の意思として反映させることができます。

また、「現状、後継者が決まっていない」というお悩みの場合も、信託契約時には、自らが代表社員、後継者候補を社員とすることにより、信託をしたうえで、時間をかけて後継者選びを進めることができます。

ただし、一般社団法人を受託者とする場合、一般社団法人の設立費用や毎年の法人税などの費用が発生しますので、その点には注意が必要です。

まとめ

オーナー経営者が認知症となった場合、「議決権の行使ができなくなる」「円滑な事業承継ができなくなる」などの様々なリスクがあります。

大切な会社が、オーナー経営者の認知症により事業継続が困難となり廃業に追い込まれたということがないよう、今からできる対策を始めましょう。

オーナー経営者の認知症対策の場合、「指図権」や「同意権」を付与する方法や「一般社団法人を活用する方法」など、オーナー経営者のニーズに合わせ、比較的柔軟に対応していくことができるのも大きなポイントになります。

 

この記事の監修者

司法書士 梶原隆央(かじわらたかひさ)
神奈川県出身
平成21年司法書士資格取得
トリニティグループの信託部門にて、 実家信託から信託財産数億円に及ぶ信託、 自社株式の信託等、幅広く信託案件に対応。