家族信託をしたら、相続のときはどうなるの?

2021年07月06日

例えば、父の認知症対策のため、息子を受託者、父を委託者兼受益者として、その財産を家族信託した場合において、父が亡くなった場合、手続きなどはどうなるでしょうか。

信託とは実質的には財産を預けているだけですから、相続は通常と変わらないのでしょうか?

あるいは信託すると通常の相続ではなくなってしまうのでしょうか?

本記事ではこの点について見ていきます。

相続による財産承継が生じない場合もありうる?

民法では、相続は死亡によって開始し、相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するとされています(民法882条、896条)。

したがって、委託者兼受益者が亡くなれば、相続が開始することになります。

とすれば、信託財産の承継も、相続により承継されそうにも思われます。

しかし、信託法は民法の特別法とされています。

特別法とは、要するに特別ルールという意味であり、信託法が、一般ルールである民法に優先することになります。

したがって、財産の大部分を信託している場合などには、信託財産について信託法のルールにより承継されるため、民法の相続による財産承継がほとんど生じないという場合もあり得ます。

もっとも、ありとあらゆる権利義務が信託できるわけではないので、何がしかの権利義務は、相続により承継されることにはなるでしょう。(例えば、年金受給権は信託できないので、支払いがあったが使われなかった年金は信託ではなく相続の対象となります。)

ここで委託者兼受益者に相続が開始した場合に、信託契約の中で注目するポイントを3つ挙げます。

 

①どの財産が信託されているのか、信託されていない財産はあるのか

②受益者死亡により、信託は終了するのか、続くのか

③信託が続くとして、受益権の承継方法についての定めが信託契約に定められているか

 

以下、1つずつ見ていきましょう。

①どの財産が信託されているのか、信託されていない財産はあるのか

委託者兼受益者の財産のうち、どの財産が信託されているのかの確認がまず重要です。

信託されていない財産については、当然通常の相続が開始するからです。

したがって、信託していない財産の承継方法について、遺言がなければ、遺産分割協議によって決めていくことになります。

すでに信託をしている場合、不動産であれば、信託の登記がされているので、登記簿を見れば信託されている財産かどうかは分かります。

金銭については、信託口座に入金がされていれば分かることもありますが、一見して分からないこともあります。

確実なのは、信託契約書を見て信託財産を確認することです。

②受益者死亡により、信託は終了するのか、続くのか

委託者兼受益者が死亡したとしても、当然に信託が終了するわけではありません。

信託を終了させる事由については、信託契約において自由に定めることができ、委託者兼受益者の死亡により終了すると定めたときは、信託が終了します。

その場合、受益権の承継は生じず、信託の清算という手続きを経た後の残余財産が、信託契約で定めた人(帰属権利者等)に承継されます。

信託契約に財産を承継させる人の指定がないときは、信託法に従い、委託者の相続人が帰属権利者として、承継することになります(信託法182条)。

つまり、いずれにせよ信託のルールに基づいて、信託財産の承継がなされることとなり、相続による承継は起こりません。

③信託が続くとして、受益権の承継方法についての定めが信託契約に定められているか

委託者の死亡によって信託が終了せず、かつ信託契約に受益権を承継する人の定めがない場合は、信託のルールがないわけですから、一般ルールに基づいて、相続により受益権が承継されることになります。

遺産分割協議の対象にもなります(相続のルールのよる承継)。

したがって、相続により承継先を決めたい場合は、受益者連続型信託にした上で、受益権を承継する人の定めを設けないようにして(相続により受益権が承継されることを注意的に明示したほうがよいでしょう)、信託契約を作成することが必要です。

信託当初、誰に財産を承継させるかまでは決めることができない、あるいは決めたくない場合には、このような形をとることが適切です。

相続開始後に承継する人を柔軟に決めていくことが可能となるこのやり方は、相続税との兼ね合いでも相性がいいでしょう。

信託契約の内容によって、信託のルールが適用されるか、相続のルールが適用されるかが決まってくることになるので、信託契約の内容が非常に重要になります。

相続税はどうなるの?

委託者兼受益者の死亡により、受益権や残余財産を取得した場合は、それが信託のルールによる承継であれ、相続のルールによる承継であれ、相続税の対象となります(相続税法9条の2)。

人の死亡により、財産を得るという意味では、通常の相続と何ら変わらないからです。

信託のルールにより承継される場合は、信託契約の時点で誰に承継させるかを決めることになりますので、相続税のことについても考えておく必要があります。

相続税のことを考えていなかったために、相続開始後に、遺産分割協議で承継したいという相談も多くありますが、信託のルールで承継する形にしてしまうと、相続開始後にはどうすることもできませんので注意が必要です。

まとめ

信託財産の承継は、信託契約の内容によって、信託のルールによるのか、相続のルールによるのかが決まることになります。

この記事を読んで、すでに信託契約を締結してしまったけど、相続を考えたら都合が悪い内容になってしまっていた!という場合は、委託者に意思能力があれば、変更契約をすれば大丈夫です。

委託者兼受益者が死亡した場合についても考えた上で、信託契約をきちんと作成ことが重要です。

 

 

この記事の監修者

司法書士 梶原隆央(かじわらたかひさ)
神奈川県出身
平成21年司法書士資格取得
トリニティグループの信託部門にて、 実家信託から信託財産数億円に及ぶ信託、 自社株式の信託等、幅広く信託案件に対応。