家族信託ではできないこと

2021年07月02日

家族信託は、柔軟に財産管理ができ、メリットが多い制度ではあります。

しかし、万能ではありません。

家族信託ではできないことについて見てみましょう。

身上監護

家族信託は財産を預けることにより、受託者が代わりに財産管理をすることができる仕組みです。

したがって、受託者はあくまでも預かった財産に関する行為しかはできず、身上監護にあたる行為はできません。

身上監護とは、ある人の生活、治療、療養、介護などに関する法律行為を代わりに行うことをいいます。

財産管理と必ずしも明確に切り分けられるものではありませんが、具体例としては、以下が挙げられます。

 

①医療に関する事項・・・・・・・・医療契約の締結など

②住居の確保に関する事項・・・・・借家の賃貸借契約の更新など

③施設への入退所及び処遇の監視・・異議申立て等に関する事項・・・施設への入退所契約など

④介護・生活維持に関する事項・・・介護保険の認定申請、介護サービス契約の締結など

⑤教育・リハビリに関する事項

 

これらの身上監護についても行う必要がある場合は、家族信託だけでなく、任意後見制度を併用する必要がある場合があります。

ただし、身上監護については、任意後見制度を使わずとも、家族であれば問題なく行える場合も多いです。

家族信託においては、受託者が子など家族であることが多いでしょうから、その場合であれば、実際上は、あまり問題がないということも多いといえます。

遺留分侵害額請求の排除

遺留分侵害額請求は、遺留分権利者が、自己の遺留分を侵害する遺贈又は贈与を受けた者に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる権利です(民法1046条)。

家族信託をすれば、財産は受託者のものになったんだから相続財産はなくなるのではないか、とか、家族信託をしたら遺留分侵害額請求を受けなくて済む、とか、そんな夢のような話は残念ながらありません。

これが認められてしまったら、遺留分制度が崩壊しますので、家族信託をしたとしても、遺留分侵害額請求を排除することはできないものとされています。

理論構成は様々ですが、委託者兼受益者の死亡により、財産を承継すると死因贈与に類似するため、遺留分侵害額請求の規定が準用又は類推適用されると考えることができるでしょう。

したがって、相続争いを避けるためには、遺留分も考慮し、他の相続人の遺留分を侵害しないような額に限って家族信託を行ったほうがよいでしょう。

損益通算

こちらは所得税に関するお話です。

所得税法によると、所得の種類は様々ありますが、不動産所得、事業所得、譲渡所得(土地建物や株式等に関するものを除く)、山林所得の4種については、その所得の計算上、損失(赤字)が生じているものがあれば、他の所得の利益(黒字)から差し引くことができます。

これを損益通算といいます。

要するに、損失(赤字)と利益(黒字)を合わせて計算し、実質的な損得を考えましょうということです。

さらに利益から損失を差し引いても引ききれない損失の余りが生じた場合は、その余りの損失額を翌年以後3年間にわたり繰越して、控除することができます。

ここまでが損益通算の原則的な取扱いですが、家族信託を行うと、これとは異なる例外的な取扱いとなります。

不動産を信託した場合において、個人が受益者である場合、信託不動産から生じた収入を超える分の不動産所得の損失がある場合であっても、その損失はなかったものとされます(租税特別措置法41条の4の2、同施行令26条の6の2)。

つまり、信託していない他の物件の不動産所得がある場合であっても、損益通算が認められないということになります。

具体例で見てみましょう。

A不動産とB不動産を有している場合において、信託をしなければ、A不動産とB不動産間において損益通算をすることができます。

例えば、A不動産の築年数が経過し古くなったため、大規模修繕を行った結果、A不動産が1年間で稼ぐ収益(家賃収入)よりも大規模修繕の修繕費の方が高くなった場合、このマイナス分をB不動産の収益から引くことができるということです。

ところが2つの不動産のうち、A不動産のみを信託をしてしまうと、A不動産から損失が生じたとしても、その損失をB不動産の収益からは引けなくなってしまいます。

すなわち、A不動産においては、損失のほうが大きいため所得はないということになりますが、B不動産については、その利益がまるまる所得として扱われ、所得税の課税対象になるということになります。

また、A不動産について引ききれなかった損失については、その損失はなかったものとされるわけですから、当然、損失の3年間の繰越しも認められません。

もっとも、同一の信託内では損益通算することができますので、A不動産とB不動産を一緒に信託した場合は損益通算が認められます。

したがって、大規模修繕など、大きな損失が発生することが見込まれている不動産を信託する場合は、損益通算ができないことによって税務面で大きな損失が出てしまわないか、慎重な検討が必要となります。

まとめ

以上、家族信託ではできないこと、できなくなることについて見てきました。

家族信託でできないこと、できなくなることは、信託の活用を検討するうえで非常に重要なポイントとなりますが、検討が必要な事案は実際にはそこまで多くないため、専門家でも見落としがちなポイントとなります。

ご自身が家族信託を利用するとしたらどうか、この記事を参考に、ぜひ考えてみてください。

 

この記事の監修者

司法書士 梶原隆央(かじわらたかひさ)
神奈川県出身
平成21年司法書士資格取得
トリニティグループの信託部門にて、 実家信託から信託財産数億円に及ぶ信託、 自社株式の信託等、幅広く信託案件に対応。