『家族信託』を活用した生活費の確保とは?

2021年01月15日

「家族信託」という言葉をご存知でしょうか。
最近はテレビや新聞などでもこの言葉をよく目にするようになりましたので、見たこと、聞いたことくらいはある、という方は多いかもしれません。

相続に関するセミナー等においても、「家族信託」をテーマとしたものは大変注目されていて、たくさんの方が参加されています。
では、どうしてこれほどまで、「家族信託」の注目度が急上昇しているのでしょうか?

それは、老後の生活費確保のための手段として、家族信託が有用だからです。
この記事では、家族信託を活用した老後の生活費の確保について解説をしていきます。

 

家族信託とは何?その仕組みとは。

まず最初に、「家族信託」とは何かについて、整理しておきましょう。

家族信託は、2007年の信託法改正以降、注目されるようなりました。この制度を利用することにより、従来とは異なり「遺言書作成」「後見人制度」等の利用に変えて、今まで以上に“被相続人”の要望に沿った財産管理が可能になったのです。

家族信託とは何かについて簡単に説明すると、次のようになります。

【家族信託とは】
自分の有する財産の「管理」を、信頼できる家族に託し、自分の財産管理能力低下によって、自分の財産が利用できなくなってしまうことを予防すること。

つまり、自分の老後に備えて、自分の財産の管理を子供などの家族に託しておける手段が、家族信託なのです。

これだけの説明ですと、わざわざそんなことをする必要があるのか、疑問に感じる方も多いかもしれません。
実際に家族信託が役立つ場面とはどういう時か、見ておくことにしましょう。

歳を重ねると、誰しもが能力の低下を感じ、人によっては、認知症を発症し、物事の判断ができなくなってしまう場合もあり得ます。
万が一、そのような状態になってしまった場合には、銀行口座からお金を引き出す行為や、不動産の売却・賃貸の契約などができなくなってしまいます。
家族信託をしておけば、万が一物事の判断ができなくなってしまっても、財産を託した家族が自分に代わって銀行口座からお金を引き出したり、不動産の契約をしたりすることができるのです。

口座凍結対策の必要性とは?

先ほど簡単に触れたように、高齢の方が認知症などにより物事の理解力を失ってしまった場合には、銀行口座からお金を引き出すことができなくなってしまいます。

ご存知の通り、現在、銀行でお金をおろす際や口座の開設・解約に際しては、本人確認が必要です。しかし、高齢となり認知症が進んでしまった場合はどうでしょうか。
昨今では、高齢者の詐欺被害も大変多いため、銀行側の預貯金保有者本人への意思確認の姿勢も以前に比べてより厳しくなっています。
例えば、現在では、配偶者などの親族が代理人として銀行の窓口に行ったとしても手続きはさせてもらえませんし、本人からの委任状を持参したとしても手続きはできません。
必ず、本人の意思確認が要求されるようになっています。

つまり、本人が認知症などにより物事の理解力を失ってしまっていると、銀行が要求する意思確認ができず、仮に本人が窓口に行ったとしても、銀行預金をおろせない、という状況に陥ってしまうのです。
これがいわゆる「口座凍結」です。

銀行は、このような場合には、「家庭裁判所に後見人をつけてもらって、後見人から手続きをしてください。」というような案内をしてきます。
しかし、後見制度は親族にかかる負担が非常に大きいため、極力その利用は避けた方がよい制度なのです。また、制度を利用する場合でも、手続きには早くても1か月程度の期間を要しますので、その間はいずれにしろ預金がおろせなくなってしまいます。
つまり、本人の生活費や介護費、医療費は当然に必要になるにも関わらず、本人の預金が使えない、という状況になってしまうのです。
そしてその負担は、家族にのしかかってくることになります。

この様なことを防ぐために口座凍結対策が必要となり、その手段として家族に資産を託す「家族信託」が有効な手段となるのです。

家族信託を使うメリットは何か?

ここまでの内容でも家族信託の有効性については、ご理解いただけると思います。
しかし、家族信託にはメリットはまだまだたくさんあります。
今度は、「家族信託のメリット」という点に注目して、まとめてご紹介していこうと思います。

メリット1|振り込め詐欺の防止

既に触れましたが、高齢者を狙った詐欺事件は多発しています。家族信託の制度を利用することで、親の資産(預貯金等)の名義を信頼できる家族(主に子ども)に変えることで、振り込め詐欺にあいにくい環境を作ることができます。

メリット2|口座凍結の抑制

これは、既にご紹介した内容です。親に適切な判断が出来ない状況となった場合には、口座が凍結され預貯金の引き出しができなくなります。家族に資産を信託していれば、こうした心配はなくなり必要に応じて預金の引き出しが可能となります。仮に将来、施設への入居が必要になった場合には、入居金などで数百万~といったまとまった金銭が必要になる場合もありますが、信託をしておけばその支払いが滞る心配をしなくてよいので、精神的な不安を軽減することにも繋がります。

メリット3|資産状況を整理するきっかけになる

家族信託を行う際には、何を信託財産とするか決めるために、本人の資産状況全体の確認から行うことが多いです。かつ、その情報を、財産を託される子世代に共有することになります。
親子の間で財産の状況を共有する機会というのは、実は非常に少なく、相続が発生するまで子供が親の財産を全く把握していないということも多いです。しかし、相続対策や、相続財産の分割などを考えると、親子間での財産状況の共有は非常に重要なことなのです。
家族信託の利用を通じて、子供に自分の財産について相談するきっかけが作れて非常によかった、とおっしゃられる親御さんも多く、この点も家族信託が有する大きなメリットと言えるでしょう。
もちろん、財産状況をすべて開示することは家族信託の利用にあたって必須のことでは なく、信託する財産以外については引き続き子供にも開示しない、という方もいらっしゃいます。

メリット4|遺言の代わりとする

家族信託の契約により資産の最終的な相続先(帰属先)も明確にしますので、遺言の代わりとすることが可能です。家族信託契約の内容を工夫することで、遺言の作成や相続に伴う手続きの手間やコストを省くことも可能となる場合があります。

メリット5|節税効果

財産を贈与すると、親子間や親族間であったとしても、贈与税が発生します。贈与税は非常に税率が高いため、親族間で財産の贈与を行う場合でも、多額の税金を支払う必要が出てきてしまいます。
しかし、家族信託を利用した場合には、贈与税を発生させずに財産の管理を家族に任せることができます。任される家族は、財産をもらうのではなく、「管理を任されるだけ」なので、贈与税が発生しないのです。
したがって、「自分が衰える前に、財産を元気な親族に渡しておきたい」といった必要性がある場合には、贈与ではなく、家族信託を活用することで、税金の問題を解消することができます。
「自分が衰える前に渡しておきたい財産」とは、管理が必要な投資用不動産などが想定されます。不動産を信託する場合には、贈与と異なり、「不動産取得税」「譲渡所得税」も発生しないため、この点でも節税効果が期待できます。

メリット6|財産を世代を超えて承継可能

家族信託を活用すれば、世代を超えた財産継承が可能です。例えば、夫⇒妻⇒子⇒孫といった形です。このような世代を超えた財産の承継先の決定は、遺言ではできず、家族信託特有の機能となっています。(遺言でできるのは自分の財産を受取る人の決定までです。「夫⇒妻⇒子⇒孫」の例で考えると、「妻」まで。)

ここでは、6つに分類してメリットをご紹介しました。

なお家族信託にはメリットだけでなく、デメリットや注意点も存在します。
例えば、家族信託契約の作成は、高度な法律・税金の知識を要求されますので、専門家に依頼したほうが良いですが、この際には当然、専門家に報酬を支払わなければなりません。
また、不動産を信託した場合には、その登記をするために登録免許税という税金を納めなければなりませんので、そのコストも発生します。
また、家族信託の注意点として、財産を託された人が強い権限を持つようになりますので、しっかりと管理ができる方にお願いする必要があります。
デメリットや注意点もしっかり意識したうえで、家族信託の利用を検討してきましょう。

家族信託を準備する手続きを理解しましょう。

ここまでの内容は如何でしたでしょうか。
家族信託について、有益なので利用しよう、と考えた場合には、実際に手続きを進めていく必要があります。
ここからは、その手順についてご紹介していきましょう。

STEP1|家族信託の内容を話し合い決めていく。

まず最初に行うべきことは家族間での話し合いです。

【話し合い整理する観点】
①家族信託をする目的(家族での合意)
②誰に信託するか
③どの財産をどれだけ信託するか
④受益者が死亡した時には、誰が財産を引き継ぐか

①~④を決めていく際には、家族間でもめてしまうことや、そもそもどうすればいいのかわからない、といった場合も多々あります。こうしたトラブルを防ぐためには、専門家に相談し一緒に内容を検討するのが得策です。

STEP2|契約書を作成する

家族信託の内容が決まったら、公正証書を作成します。
こちらについても、専門家の力を借りることが一般的です。
また、公正証書は公証役場にいる公証人が作成します。
家族信託の手続きはまだ続きますが、信託契約の効力そのものは公正証書作成時に発生します。

【準備する資料】

公正証書を作成する際には、信託する人とされる人の印鑑証明書を公証人に提出します。
不動産を信託する場合には、事前に登記事項証明情報(登記簿)や固定資産納税通知書のコピーをあらかじめ公証人に提出しておく必要があります。(事前提出はFAXやメールなどで可能です。)

STEP3|資産の名義を移す

家族信託の効力が発生したら、信託した財産の名義を変更していきます。具体的には、不動産であれば、信託登記を法務局に申請します。また、信託した建物に火災保険をかけていた場合には、火災保険の名義変更も必要となります。さらに、投資用不動産を信託した場合には、賃料の振込口座の変更を借家人に依頼しなければなりません。

STEP4|専用口座の準備

STEP3と並行して進めるのが、専用口座の準備です。これは、信託された預貯金を管理する為の専用口座となります。口座が準備できたら、最後に信託をする方からその口座に信託する金銭の送金をしてもらう必要があります。家族信託では、数千万~億といった単位の金銭を送金するときもありますが、その場合には、送金を行う旨をあらかじめ銀行に伝えておくと当日の手続きがスムーズになります。

以上の工程を経たら、晴れて家族信託が完成です。
信託契約書の作成や、不動産の信託の登記など、専門家の力を借りた方がよい部分がかなりあるということをご理解いただけたかと思います。

生活費確保だけではない「家族信託」の利用方法とは?

この記事では、生活費確保のための家族信託ということでご説明をしてきましたが、最後に、生活費確保以外の家族信託の利用方法をいくつかご紹介したいと思います。

事例①|親が施設入所する事で実家が空き家になる場合

両親のどちらかが他界し、残された親が実家で一人暮らしをしていました。しかし、年齢を重ねるとともに心身の衰えもあり、単独での日常生活が厳しくなったため、施設入所をすることとなりました。
そして、実家が空き家になりました。
こうした場合には、何の対策もしていなかった場合、この空き家となった実家を賃貸に出したり、売却をすることが難しくなってしまいます。
実家のオーナーである親御さんが賃貸や売買といった複雑な法律行為をこなす能力を有していないと考えられるためです。
このような事態に備えて、あらかじめ家族信託をし、子供が実家の賃貸借契約や売買契約を行えるようにしておけば、不動産を有効活用する機会を逃さずに済みます。
また、施設に入所する際には、入居金として数百万~の高額なお金を納めなければならない場合もありますが、実家を売却できれば、その入居金を工面するためにも役立てることができます。
売却をしない場合でも、賃貸をして賃料を得ることができれば、親御さんの医療費・介護費に充てることができ、本人や家族の金銭的な負担を軽減することが可能となります。

事例②|高齢になり賃貸物件(収益物件)の管理が負担となってきた場合

不動産を貸して収益を得ている方が、高齢になり、不動産の管理(施設の管理、賃料の回収等)の負担が重くなることもあります。
こうした場合にも家族信託を利用することが出来ます。家族信託を利用することで、賃貸物件の管理、売却などの関する権限を託すことで、オーナー本人の負担を解消することができます。賃貸物件については、年々老朽化しますのでリフォームや改装が必要になる場合もあります。こうした際にも家族信託をしていれば、託されている方が必要に応じて賃貸物件の管理を行うことが可能になります。

事例③|孫への資産承継

息子が二人いるが、片方の息子には子供がいないとします。そうすると、その子供がいない息子に受け継がせた財産は将来的にはその息子の配偶者の兄弟に引き継がれてしまいます。つまり、自分とは全く血縁関係がない方に財産が流れてしまうことになるのです。
家族信託を活用すれば、このような状況を回避することができます。
家族信託の、財産を次世代に渡って承継させられるという性質を活用して、子供のいない息子に引き継がせた財産について、その息子が亡くなった後は、孫に承継させる、といった流れを組むのです。
こうすることで、自分の財産が血縁関係のない方に流れてしまう可能性を排除することができます。

この様に、家族信託にはたくさんの活用方法があります。ここまでで上げた活用事例もほんの一例に過ぎません。大変自由度の高い家族信託ですが、だからこそ、財産の引き継ぐ者の感情への配慮や契約内容に不備がないか等について、慎重に考えていかなければなりません。自由度が高いからこそ、目的を明確に、内容はシンプルに作るべきなのです。
これを複雑にし過ぎて、後からトラブルになっては元も子もありません。
家族信託を利用するときは、専門家の力も借りながら、目的の整理、課題の解決方法の設計について、将来的な部分まで見越しながら慎重に検討をしていきましょう。

まとめ

今回は家族信託を活用した生活費の確保についてご紹介してまいりました。家族信託は、聞いたことがあっても、専門的な用語に聞こえるので抵抗感を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、一度知ってしまえばその有効性についてもご理解頂けると思います。
超高齢社会である日本においては、2025年には、5人に1人が認知症になると言われています。必ず認知症になってしまうわけではもちろんありませんが、誰もが認知症「対策」をしておかなければ安心できない時代になってきているのです。
いろいろな情報をお伝えしてきましたが、家族信託の本質はシンプルです。

・「財産の管理を、家族に託す。」

それだけです。

そして家族信託が必要となる理由は、

・「認知症による財産凍結から財産の持ち主とその家族を守るため。」

です。

この2点を念頭に、今はまだ家族信託が必要ないと感じている方も、ぜひ心にとめておいてください。今は他人事でも、数年経過すれば自分や自分を取り巻く環境の中で、こうした制度を利用する必要性が出てくる可能性があるかもしれません。その時に困らない様に、そして適切な対策ができるように、この記事の内容をお役立ていただければ幸いです。

 

この記事の監修者

司法書士 梶原隆央(かじわらたかひさ)
神奈川県出身
平成21年司法書士資格取得
トリニティグループの信託部門にて、 実家信託から信託財産数億円に及ぶ信託、 自社株式の信託等、幅広く信託案件に対応。