家族信託は認知症対策として最適?認知症発症後も家族信託は可能?

2021年01月18日

現在日本は、世界でも類を見ない「高齢化社会」となっています。そこで、問題になってくるのが、今まで築き上げてきた高齢者の財産をどのようにして守っていくかということです。高齢者の財産管理としてよく知られている方法に、「成年後見制度」がありますが、近年では「家族信託」を利用する人が増えてきています。
この記事では、この「家族信託」という制度が、認知症対策にどれ位有効なのかについて、詳しく解説していきます。また、認知症発症後も家族信託の利用が可能なのかについても触れていきます。

家族信託とは

家族信託という言葉について、あまりなじみがない人は多いと思います。「信託」と言えば、まず思い浮かぶのは、「投資信託」ではないでしょうか。投資信託とは、金融機関に自分の資産や財産を預けて運用してもらい、それによって利息や配当が生じた場合には、それを受取ることができる、というものですね。

つまり、「信託」とは文字どおり、第三者に自分の資産や財産を託すものです。そして、ここでご説明する「家族信託」とは、家族に自分の財産の管理を任せることを言います。

高齢者が財産を第三者に預ける制度としては、「成年後見制度」がよく知られていますが、この制度では、血縁関係などのない、全くの第三者に財産を預ける場合が多く、知らない間に使い込まれてしまうといったトラブルも発生しています。また、そんなリスクもあるにも関わらず、後見人(財産を預かる人)に対して、報酬を支払う必要もあるのです。

家族信託は、自分の家族や親戚に財産を託すので、いつの間にか使い込まれてしまうというリスクは少ないでしょう。また、財産を託す家族・親戚に対して、報酬を支払う必要もありません。

2007年(平成19年)に「改正信託法」が施行されて以降、この家族信託が注目されるようになりました。家族信託の利用により、高齢者の財産の管理と相続人へのスムーズな遺産の引き継ぎが可能になったのです。

なぜ、家族信託が注目されるようになったのか、そこにはいくつかの理由があります。

手続きが比較的手軽

まず1つ目は、手続きが比較的手軽な点です。

高齢者の財産管理である成年後見制度では、後見人の選任などの手続きを全て家庭裁判所が行うことになります。しかも、手続きが煩雑であり、提出すべき書類も多岐に渡ります。

しかし、家族信託の場合は、基本的に、財産の管理を依頼する人と、管理を引き受ける人の間で合意し、契約書を作成すれば、成立します。成年後見制度に比べて、手続きが複雑ではなく、依頼する人、引き受ける人の負担もかなり軽くなります。

管理する人への報酬がかからない

2つ目は、基本的に管理する人に対する報酬がかからない点です。

成年後見制度では、後見人には弁護士や司法書士といった専門家が就任し、あくまでも業務の一環として行うことが多いため、報酬が発生することになります。しかも、この報酬額は、当事者が勝手に決めることはできず、家庭裁判所が報酬額を決めて、そのとおりに支払わなければならルールとなっています。

しかし、家族信託の場合は、基本的に報酬のやり取りは発生しません。なので、財産の減少を最小限にとどめることができます。

自分の財産を引き続き把握・掌握できる

3つ目は、家族信託の契約を行った後でも、自分の財産を把握できることです。

成年後見制度の場合、被後見人(財産を預ける人)は認知症などで判断能力が著しく低下した状態で、後見人に託すことになります。なので、自分の資産・財産がどのような状態になっているかを、本人が把握していない状態で財産を託すことになるのです。

これに対して、家族信託の場合は、契約を結んだ時点で、財産の管理が始まることになるため、託した本人も自分の財産を把握することが可能です。つまり、成年後見制度と違って、いつの間にか、自分の財産が使い込まれていたという事態が起こりにくいこととなります。

ただ、家族信託にもいくつかのデメリットがあります。

家族信託のデメリットその1

まず1つ目は、家族信託で財産を預かった人(受託者と言います。)は、本人の法的な代理人ではない、ということです。

法的な代理人とは、例えば、未成年者に対する親の関係です。そして、成年後見人は、法的な代理人とされています。

これに対して、家族信託は、あくまでも本人の財産を管理するだけであり、法的な代理人の役目を担うことができません。なので、例えば、本人が加入している保険に関する情報の開示を保険会社に求めるなどの行為は、家族信託の受託者からはできません。

家族信託のデメリットその2

2つ目は、財産を管理する人(受託者)を選定する際に、トラブルが発生する可能性があることである。

家族信託は、財産を持っている人(委託者)と受託者の合意で成立するという便利な面がある一方、委託者の財産が受託者の名義に代わるということで、その他の家族・親戚から、「使い込むのではないか」といった疑心暗鬼が生じる可能性があります。

成年後見制度では、家庭裁判所が後見人をする選任するため、このようなトラブルは起きにくいですが、家族信託の場合、当事者間の合意だけで成立するため、他の家族・親戚が知らない間に、家族信託の契約書が出来上がっていたという事態が起こり得るのです。

何も対策をせずに認知症になってしまうとどうなる?

ここでは、何も対策をせずに、高齢者が認知症になった場合について考えてみましょう。

先程もご説明したように、家族信託という制度は、委託者と受託者の合意があれば成立します。その後で行う、契約書を作成する、委託者の財産を受託者の名義に変更するというのは、あくまでも手続き上のことであり、まず当事者間での合意が大前提となります。

しかし、家族信託に対して合意するということは、判断能力がなければ不可能なことです。従って、高齢者が認知症になり、意思能力・判断能力を失ってしまった場合には、家族信託という選択肢は消えてしまうのです。

そうなると、自ずと成年後見制度を利用することになります。

一言で成年後見制度と言っても、2通りの方法がありますので、まずは成年後見制度の種類をご紹介していきます。

任意後見制度

1つ目は、「任意後見制度」です。

この制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、任意の者に、将来後見人になってもらう契約を結ぶものです。具体的な契約内容としては、もし自分の判断能力が不十分な状態になった時に、自分の生活、療養看護、財産の管理などの手続きに関する代理権を与えるというものになります。

代理権は、生活や財産など、極めて重要なものになるので、「公正証書」を作成しておかなければならないとされています。誰を後見人にするかは、特に制約はなく、親族でもいいですし、つながりのある弁護士や司法書士などの専門家でも構いません。
これから説明する法定後見と異なり、後見人を誰にするかを自由に決められるのが任意後見制度の特徴です。

法定後見制度

2つ目は、「法定後見制度」です。

法定後見制度は、本人に物事を判断する能力がなくなった時に、本人、配偶者、4親等内の親族が、家庭裁判所に申立てることで利用できる制度です。

本人は物事を十分判断できなくなっていますから、申立の手続きには医師の診断書が必要になります。

本人の居住地を管轄する家庭裁判所に、申立書、医師の診断書、手数料などを提出した後、家庭裁判所で審問・調査・鑑定などが実施されます。

その後、家庭裁判所は、後見の開始の審判を行い、適した成年後見人を選任します。もしこの決定に不服申立がなければ、成年後見人が審判書を受領した2週間後に、成年後見人選任の審判が確定します。

本人が既に認知症になっていた場合には、2つ目の「法定後見制度」を利用することになります。

しかし、この法定後見制度は、以下のような特徴があるため、極力その利用を避けたい制度となっています。

 

・ 後見人となる見ず知らずの第三者に、本人の印鑑や通帳、不動産の権利証などすべての財産を預けなければならない。

・ 法定後見は一度始まると本人が亡くなるまで続き、その間、毎年24万円~数十万円の報酬を支払い続けなければならない。

・ 親族は本人の財産を一切自由に触ることができなくなり、本人の財産の使い方についてはすべて後見人が決定することになる。

・ 相続税対策ができなくなる。

 

法定後見制度は、悪徳業者などの被害から本人を守る点を重視して設計された制度であるため、財産の管理方法が厳格で、親族からすると非常に不便なのです。
かつ、後見人に対しては報酬を支払い続けなければなりませんので、金銭的にも好ましくありません。

※本人の財産が少ない場合には、親族が後見人となれる場合もあります。その場合には、後見人に対する報酬を発生させないことも可能です。

家族信託が効果的な世帯とは?

家族信託が効果的な世帯としては、以下の3パターンが考えられます。

資産家の世帯

まず1つ目は、資産家の世帯です。

多くの財産がある世帯、特に多くの不動産を持ち、賃貸住宅として貸出しをしている世帯には、家族信託が効果的です。不動産の所有者が認知症になった後でも、受託者が賃貸住宅の管理、不動産の運用・処分などを行うことができるからです。

もし、家族信託の契約を結ばないまま認知症になってしまった場合、不動産の賃貸借契約や売買契約の際には成年後見制度を利用しなければならなくなってしまいます。

障がいのある子がいる世帯

次に2つ目は、障がいのあるお子様がいらっしゃる世帯です。お子様に障がいがある場合、将来両親の相続が発生した際に、その子が財産を相続しても、自分で財産を管理することが困難であると考えられます。

そこで、家族信託を利用することで、障害がある子ども以外の家族・親戚を受託者として、その子のために財産を管理してもらうことができます。

親が経営者である世帯

3つ目は、親が自ら事業を行っている世帯です。

このような世帯では、親が自社の株式の多くを所有している場合が少なくありません。この場合、親から子へ株式を渡したいときに、ある程度株価がついていると、贈与では贈与税の問題が、売買では買取資金の問題が発生し、株式の渡し方に苦慮してしまう、ということがよくあります。
このような場合には、親から子に株式を信託する方法を取ると、贈与税が発生せず、また買取資金も不要となります。

家族信託は認知症対策として最適なのか?

今まで見てきたように、家族信託という制度は、資産・財産を持つ人が認知症になる前に行えば、最適の対策だと言えます。

もちろん、認知症を発症した後でも、先程ご説明した「法定後見制度」を利用するここで、財産の管理そのものはすることができます。しかし、法定後見制度では、後見人に全ての財産を託することになり、相続税対策や投資の運用などで資産・財産を積極的に生かすことはできなくなってしまいます。家族信託に比べて、財産管理の自由度が極端に低いのです。

また、「法定後見制度」を利用した場合には、後見人に報酬を支払わなければならない点も問題です。法定後見は、一度開始してしまうと基本的に中止することができないので、後見制度を利用してやりたかった財産の処分などが完了した後においても、本人が亡くなるまで本人の財産から後見人の報酬を払う必要があり、財産を目減りさせることになってしまいます。

家族信託も、開始する際に専門家のサポートを受けた場合には、数十万~の費用が発生しますが、信託が開始した後は基本的に報酬などはは発生しませんので、長期的に見れば、財産の目減りを抑えることができます。

家族信託は認知症発症後でもできるのか?

家族信託は、本人が認知症を発症した後でも利用できるのかという点は、最も気になる問題かもしれません。

結論から言えば、認知症発症後に家族信託が利用できるかは、ケースバイケースです。

家族信託とは、委託者と受託者との間で行う契約です。通常の契約をご想像いただければと思いますが、契約を結ぶ際には、当事者にきちんとした判断能力が必要です。

判断能力というのは、「自分が行っている行為の意味が分かる能力」と考えていただければと思います。そして、委託者に判断能力がなければ、家族信託という契約を結ぶことができず、仮に結んだとしても無効になってしまいます。

ただし、一言で「認知症」と言っても段階があり、ある程度の判断能力がある場合の「軽度認知症」であれば、家族信託を利用できる可能性があります。

この「軽度認知症」とは、判断能力が正常と認知症の間の状態とされるものです。具体的には、日常生活にはほとんど支障はないが、物忘れが頻繁にあるような状態です。

家族信託の手続きにおいて、判断能力の有無を見極める立場にあるのは、契約書作成で関わる公証人です。不動産がある場合には司法書士も判断能力の有無を確認します。
これらの立場の方が判断能力あり、と判断すれば、家族信託の手続きを進めることができることになります。

認知症発症後、家族信託ができなかった場合はどのような対策が取れる?

もし親が認知症を発症し、家族信託ができなかったら、どのような対策を取ったらいいのでしょうか。

先程もご説明したように、認知症を発症した場合は、判断能力が低下しているということになるので、家族信託を利用することは難しくなる。そうなると、成年後見制度の中の「法定後見制度」を選択せざるを得なくなります。

ただし、家族から見て親が認知症を発症したと思っていても、「軽度認知症」の可能性も否定できません。そこで、家族がまず行うべきことは、法律の専門家である弁護士、司法書士、行政書士などに相談することです。

家族信託の実務に長けた専門家であれば、公証人が判断能力ありと判断してくれるか否かまでアドバイスをしてくれることでしょう。

また、仮に判断能力がない場合であっても、後見制度を使わずに問題解決をする方法を提案してくれるかもしれません。

認知症発症後に家族信託を利用しようか考えている場合には、一人で悩まずに、専門家に相談してみるのが良いでしょう。
最近は初回無料相談に対応している専門家も多いので、気負わず相談をしてみましょう。

まとめ

親の財産を管理する方法としては、成年後見制度よりも家族信託の方がメリットは大きいです。また、成年後見制度はデメリットも大きので要注意です。
ただし、親が認知症を発症し、判断能力が低下した場合には、家族信託の利用が難しくなります。できるだけ早い段階で専門家に相談しておくことが重要です。

 

この記事の監修者

司法書士 梶原隆央(かじわらたかひさ)
神奈川県出身
平成21年司法書士資格取得
トリニティグループの信託部門にて、 実家信託から信託財産数億円に及ぶ信託、 自社株式の信託等、幅広く信託案件に対応。