家族信託は万人共通に必要か?家族信託が必要ない人や必要ないケースとは?

2021年02月01日

認知症対策などとして、今大変注目されている「家族信託」。既に聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

では、「家族信託」は万人共通に必要な制度なのでしょうか?

家族信託については、それを活用するべき人、活用に向かない人がいます。

今回は、家族信託についての理解と実際に活用に向かない人について整理していきます。

この記事を参考に、ご自身がどちらであるかを理解し、ご自身とご家族にとって最適な方法を選択していきましょう。

1:基本を理解する|家族信託とは何か?

最初にご紹介しておきたいのは「家族信託」とは何か?についてです。

家族信託を正しく理解することが、家族信託を検討するうえでの大前提となりますので、ここで整理をしていきましょう。

1-1:信託とは?意味を理解しておきましょう

ここでは「信託」「家族信託」の言葉の定義を紹介します。 この2つの定義について、最初に理解しておくことが必要です。

「信託」とは、「信じて託す」と書きます。 対象物を誰かに信じて託す。つまり、管理をお願いすることを意味しています。

「家族信託」とは、 自分にとって大切な財産を、信頼できる家族(人)に託し、自分が望む目的を元に自分や家族の為に運用や管理をしてもらうことを言います。

1-2:家族信託とは?仕組みを理解しておきましょう

今度は、「家族信託」の仕組みを理解していきましょう。 家族信託は、難しいものではありません。 登場人物はAさんとBさんです。

 

Aさん…財産の管理や運用をお願いする人=「委託者」と言います。

Bさん…財産の管理や運用を受ける人=「受託者」と言います。

 

既にお分かり頂けたかと思いますが、「委託者が受託者に財産の管理や運用をお願いすること。」これが、信託の仕組みです。

家族信託とは、委託者、受託者の関係が信頼できる家族であるということです。

シンプルにご紹介するとこれだけの仕組みとなります。 手続きは別として、その構成自体は難しいものではないということが分かりいただけたかと思います。

2:家族信託が必要ないケースとは?

家族信託を利用する理由として最も多いのが、認知症による財産凍結の回避です。

認知症により意思能力を喪失してしまうと、「銀行口座からお金が下せなくなる。」「保有している不動産の売却ができなくなる。」といった生活にかかわる不都合が生じる可能性があります。

これを避けるために、家族信託を利用して、あらかじめ自分の財産の管理を家族に任せておくのです。

つまり、財産が凍結してしまっては困る人が、家族信託を行う必要がある人ということです。

逆に、財産がほとんどなく、自分の固有の財産ではないところで生活を立てている方は、家族信託を行う必要は生じません。

例えば、専業主婦をされている方は、自分名義の財産はあまりなく、パートナーの預金や不動産で生活をしていることがほとんどでしょう。

このような方は、ご自身の財産があまりないことから、財産凍結によって生活が困窮するということも想定されません。

つまり、家族信託によって財産凍結を回避する必要がないということです。

逆に、凍結されては困る資産をお持ちの方は、家族信託をしておいた方がよいと言えます。

そして、資産を凍結されては困る、という方の多さゆえに、家族信託が今大変な話題となっているのです。

3:家族信託を利用するべき人、利用する必要がない人とはどんな人?

家族信託をする必要性がある方は非常に多い、という部分はご理解いただけたかと思いますが、家族信託の必要性があっても、実際には、その利用をやめておいた方がよい、という方もいらっしゃいます。

以下、家族信託の利用をやめておいた方がよい方について整理していきます。

3-1:家族信託の利用をやめておいた方が良い方とはどんな人?

親族間の関係が良くない方

家族信託は、委託者と受託者との間の契約によって行います。

例えば、3人の子供を持つ方が家族信託をしようとする場合には、その子供のうちの1人を受託者とするのが通常です。

そうすると、受託者に選ばれた子供と受託者に選ばれなかった子供、という違いが兄弟間に生まれ、後々軋轢を生む原因となります。

兄弟間の仲が良く、しっかりと相互理解ができるのであれば、問題ないのですが、親族間の関係が悪い場合には、

そのような状況を作ることは難しいと考えられますので、家族信託の利用には慎重になったほうが良いでしょう。

なお、法律上は、受託者を兄弟全員とするような家族信託を行うことも可能ですが、受託者が複数名いる家族信託は、信託財産の運営について、受託者同士で揉めてしまうなどといったリスクがあるため、通常は行いません。

受託者にふさわしい家族がいない場合

家族信託をすると、受託者は預かった財産について、非常に大きな権限を持つようになります。

やろうと思えば、預かった現金を自分のために使ってしまうことも、預かった不動産を勝手に売却してしまうことも可能です。

つまり、受託者には高度なモラルや責任感が求められるのです。

また、投資用物件や有価証券など、特別な管理が必要な財産を預かる信託の場合には、その管理能力も持ち合わせていなければなりません。

そして、もし、モラルを保てない方や、信託財産をしっかりと管理できない方を受託者としてしまった場合には、財産凍結から財産を守るどころか、財産を減らしてしまう危険性すら発生してしまいます。

なので、受託者にふさわしい方が家族や親族の中にいない場合には、家族信託の利用は避けた方がいいでしょう。

3-2:家族信託を利用すべき人を整理する

今度は家族信託の必要性がある方の中でも、特に利用するべき人とはどんな人かも整理していきましょう。

これは、家族信託が本当の意味で必要な人ともいえますので、よく覚えておきましょう。

家族信託が必要な人①|管理する財産がある

例えば代々引き継でいる不動産などの大きな財産がある場合には、家族信託が有効です。

大きな財産は積極的な管理・運用をしていかなければ守っていくことができませんが、認知症により意思能力を喪失してしまうと、それができなくなってしまうためです。

例えば、相続税の対策として、不動産の売り買いや、資金の借り換えなどをしようとする場合、これらはすべて法律行為ですので、意思能力が必要となります。

家族信託をしておけば、万が一財産の所有者が意思能力を喪失してしまっても、受託者が必要な法律行為を行うことができますので、安心です。

家族信託が必要な人②|加齢により明らかに両親の能力の低下がうかがえる場合

両親が高齢となり、目に見えて能力が低下してきた場合には、早めに家族信託をして意思能力の低下に備えた方がいいでしょう。

認知症になったからと言って、法律行為ができなくなるというわけではなく、「意思能力を喪失してしまった場合」に法律行為ができなくなります。

つまり、認知症によって少し能力が低下してきた段階においては、まだ家族信託などの手続きができる可能性が残されているのです。

意思能力を完全に喪失してしまう前に、家族信託を行っておくことで、財産凍結のリスクを回避することができます。

家族信託が必要な人③|障害のある子どもを守る

お子様に障害がある場合、自分が高齢になり認知症になった場合に残されたお子様はどうなるのでしょうか。

家族信託を利用することで、お子様の将来に備えて、信頼できる親族に財産を託し子供の生活や生活費について管理してもらうことが出来ます。

4:家族信託のメリット・デメリットを押さえる必要性

家族信託の必要性や、利用すべきか否かについて整理してきましたが、各家庭の事情は様々ですので、ここまでの記事を読んでも、ご自身にとって家族信託が必要なのかどうか、判断するのが難しい、という場合もあると思います。

ここからは、家族信託のメリット・デメリットという視点で、家族信託を整理していきます。

これまでの記載と合わせて、あなたにとっての家族信託の必要性を判断する材料としてください。

4-1:家族信託のメリットを整理する!

では、家族信託のメリットから見ていきましょう。

家族信託メリット➀|認知症発症後にも安心

判断能力を喪失すると法律行為ができなくなり財産が凍結状態となる。

この問題を解決するために家族信託です、といった文脈で今まで書いてきましたが、加齢による能力の低下の問題はそこだけに留まりません。

財産が凍結するまではいかなかったとしても、認知症により、預金の管理ができなくなる、不動産の管理ができなくなる、といったことは当然あり得ますし、高齢者狙いの詐欺事件などに巻き込まれてしまうリスクも高まっていきます。

家族信託をして、財産の管理を次世代に任せておけば、上記のような、能力低下が招く不具合をも回避することが可能です。

認知症発症前であっても、高齢により身の回りのことや少し複雑な作業が難しくなってきた場合には、家族信託によって財産の管理を子世代がサポートしてあげるという使い方もあります。

これによって両親も安心して生活が送れるようになる場合もあるでしょう。

家族信託メリット➁|遺言機能を保有している

家族信託は遺言書の代わりのような機能も有しています。

家族信託の内容として、信託した財産を最終的に誰に受け継がせるか、決定しておくことができるのです。

委託者の存命中は財産管理として機能し、委託者に相続が発生した際には、遺言として機能する。

家族信託は、このような多機能性も魅力の一つです。

家族信託メリット➂|世代を超えた相続が可能

家族信託の遺言書と同じような機能を有すると説明しましたが、実は、遺言でも有しない機能までをも有しています。

それは、世代を超えた財産の承継を可能とする機能です。

例えば、遺言の場合、自分の財産を誰々に相続させる、ということは決められますが、その次の世代について決めることはできません。

家族信託の場合は、それができるのです。

例えば、自分の有する自宅不動産を長男に継がせ、長男が亡くなった際には、長男の長男(本人から見たら孫)に継がせる、ということが、家族信託の場合にはできるのです。

この機能があることから、親族関係が複雑な方や地主さん、経営者の方などから家族信託は重宝されているのです。

4-3:家族信託のデメリットを整理する!

今度は、注意をしないといけない家族信託のデメリットについてご紹介します。

家族信託デメリット➀|管理上でのトラブル

受託者は財産を信頼の上で管理、受託を受けています。

そして、受託者が財産の運用に関する権利を有していますので、その気になればその財産を私的理由での利用することもできてしまいます。

そのようなことが行われ、後からその事実が発覚するようなことがあれば、当然、委託者と受託者の間でトラブルに発展するでしょう。

当然、受託者を縛る者は「信頼」だけではなく、受託者は信託法上、信託事務をしっかりと遂行しなければならない義務を負います。

しかし、法律のルールだけではすべての受託者の暴走を完全に防止することは難しいかもしれません。

こうしたトラブルを避けるためには、受託者を監視する「信託監督人」や、受益者の支援を行う「受益者代理人」を選任する方法を取る事も考えられます。

家族信託デメリット➁|受託者から税務署に対して書類の提出が必要となる

信託財産から収益が生まれる場合、受託者は毎年税務署にその収益に関する書類(信託の計算書および信託の計算書合計表)を提出しなければなりません。

書類のフォーマットは国税庁のサイトからダウンロードでき、分量としては、A4用紙2枚分、書き方の案内も国税庁のサイトにありますが、税務署への提出書類の作成になれていない方にとっては、それなりに手間になる書類です。

信託財産の収益について、信託前から申告をお願いしている税理士がいる場合には、その税理士に相談するとよいでしょう。

家族信託デメリット➂|比較的新しい制度であること

家族信託という制度は、比較的新しい制度です。 家族信託が利用され始めたのは、2007年の信託法改正のタイミングからですが、多くの人に注目され、利用者が増えてきたのは2017年ごろなのです。

したがって、

・取り扱いになれている専門家が少ない

・裁判例が少なく、法的・税務的に不透明なところが一部存在する

という状況があります。

このような中で家族信託を安全に利用するためには、家族信託に精通しており、対応した実績も多い専門家に相談をする必要があります。

専門家に相談するときは、今までの家族信託の実績や、実際にサポートした内容について初めに聞いてみるといいでしょう。

5:家族信託の仕組みを利用するか悩む時には?

ここまでの内容は如何でしたしょうか。

家族信託は、「もしも、認知症になったときに」という保険的な性質を有するため、実際に実行に踏み出すか、悩んでしまうこともあるでしょう。

将来のことは誰にも分りませんので、悩んでしまうことが普通、とも考えられると思います。 家族信託を利用するか迷うときは、

 

➀将来、認知症発症などによって起こりうるリスクを今一度具体的に考えてみること

➁関係する家族や親族とよく相談すること

➂専門知識を有する第三者に相談すること

 

といった順番で、落ち着いて検討を進めてみてください。

家族信託は、委託者が意思能力を喪失してしまった後にはできませんが、逆に言えば、その前であれば、いつでも実行が可能です。

なので、まだ当事者の能力に余裕がありそうであれば、一度落ちついてじっくり検討することが、漠然とした悩みを解消するための近道となるでしょう。

ただし、時間的に猶予がなさそうであれば、③からスタートすることがおすすめです。

専門家であれば、相談したその場で、現状でのリスクや家族信託の必要性について教えてくれることでしょう。

6:家族信託の必要性:まとめ

いかがでしたでしょうか。

家族信託は、将来の財産的なリスクを解消するうえで大きなメリットがありますが、全ての人が導入しなければいけないということではありません。

重要なのは、ご自身やご家族にとって、家族信託が必要かどうかを判断できるだけの知識を持っているかどうかです。

こちらの記事を参考にしながら、ぜひ、家族信託の必要性について検討してみてください。

そして、今すぐには必要なさそう、という方も、ぜひこの機会にご家族と家族信託について話あってみてください。

家族信託を関係する親族が正しく理解していれば、いざというときにはスムーズに導入することが可能となるからです。

踏み込んだ検討をしたい方は、専門家に相談してみてもいいでしょう。

最近は必要性などの相談や見積もりについても無料で対応している専門家も多いので、専門家に相談するハードルは高くはありません。

 

この記事の監修者

司法書士 梶原隆央(かじわらたかひさ)
神奈川県出身
平成21年司法書士資格取得
トリニティグループの信託部門にて、 実家信託から信託財産数億円に及ぶ信託、 自社株式の信託等、幅広く信託案件に対応。